2009年01月10日号
卒論が英ネイチャー誌に掲載 内田健一くん(理研1)
自分で作り上げる楽しさ

昨年十月、本学理工学部生の卒業論文が、世界で最も権威ある英国科学誌「Nature(ネイチャー)」に世界最年少タイで掲載された。この快挙を成し遂げたのが、現在、大学院基礎理工学専攻一年で齊藤英治研究室に所属する内田健一くん。全国の学会で研究発表する多忙な日々を送る内田くんに今回、研究過程のエピソードや研究にかける想い、今後の抱負について聞いた。
――今回のことに対する率直な感想は。
僕が研究を始めたのはたった一年半前のことで、最初は論文が書けるかなという状態でした。今回のことを聞いた時は、まさか自分の研究が載るなんて信じられなかったですね。
といっても、自分一人の力だけではなくて、齊藤先生や先輩、齊藤研のメンバーがいなかったらできなかったと思います。全てが上手く噛み合った結果だと思うので、今は周りのみんなに感謝しています。
――今回の研究成果について教えてください。
僕たちが普段使っている機械は電流で動いていますが、その電流の担い手は電子で、電子は電荷とスピン(磁気)を持っています。電荷しか使ってこなかったこれまでのエレクトロニクスに、スピンも使って新しい機能や特性を創るスピントロニクスという分野が、最近非常に注目を集めています。
実際、この磁気の流れ“スピン流”を活用できれば、発熱なしでパソコンが使えたり、高効率の磁気デバイスを作れる可能性があります。
僕はもともと、金属に温度差をつけると電流が発生するというゼーベック効果は知っていたので、そのスピン流版はないのかとふと思いついたんです。そこで、温度差をつけた金属からスピン流が発生していないかを実験で観測してみたところ、その検出に成功しました。
スピン流はこれまで、1ミクロンという非常に短い距離でしか作れないと考えられてきました。なので、その千倍以上も大きな鉄の塊に流れを作り出せるなんて、誰も想像もしなかったんだと思います。専門家でないがゆえの発想でした。
――研究過程でのエピソードなどはありましたか。
新しい現象だったので、観測できても理論的な裏づけが無いとダメで、これが非常に難しかった。今までは小さい距離でのスピン流の理論しか存在しなかったので、全然説明できなかったんです。なので、理論も自分たちで一から作りました。先生やメンバーとディスカッションを重ねて、最初は突拍子も無かったアイデアが徐々に確立していった。実験に半年、理論づけに半年、論文執筆に半年かかりました。
また、自分で言い出したテーマだったので、モチベーションは続きますよね。ひたすら研究、研究で何も考えずに没頭して、日曜を返上して二、三週間毎日大学に行ったり、実験も最長で二十二時間ぶっ続けでやったこともありました。
たとえ失敗しても、教科書に無いことをやっていて、それを自分で作り上げている実感があったので、今までにない気持ちよさがあった。研究の楽しさを知ることができました。
――普段の生活で意識していることはありますか。
常に物理のことは考えるようにしています。アイデアは急にポンと出るわけではなくて、常に意識して考えて、そのプロセスの中で生まれると思います。
――研究に対する姿勢では。
研究に関していえば、自分では意識していないのですが、実験を丁寧にしっかりやっていると人によく言われます。僕、心配性なんです。それがいい意味で働いて、心配だから納得するまでやりますね。やたらといろいろ確認するので、実験はミスをしない自信はあります。
実際、細かいことをいい加減にしない人が、研究でいい結果を出してると思います。疲れてる時など、ついいい加減になりがちなところをきちっとすることが重要で、徹夜の実験でとったデータもすぐに解析して結果を出す。こうした姿勢が大切なんだと思います。
――今回の研究を通して感じたことは。
齊藤先生はいつも、「研究は人だ。自分だけがどんなに頑張ってもダメで、人と相互作用して初めていい結果が出る」と言うのですが、まさにこの言葉を実感した一年でした。先輩や先生との相互作用が無ければできなかったし、いくらいい装置があって、お金があっても、人がいなければ研究は成り立たない。人との相互作用が研究において果たす重要性を本当に感じました。
――研究者として塾生にアドバイスなどはありますか。
僕は研究をやる一番のポイントは、やはり楽しんでやることだと思います。楽しんでやればモチベーションも続くし、同じことをやっても自ずと結果も違ってくる。
それと、ゼミや研究室選びは損得で選ばないほうがいいです。自分が本当にやりたいと思ったら、仮にデメリットがあるとしても、その道に進んだほうがいい。損得で研究はしちゃいけないと思います。
――今後の抱負や夢は。
やっていて楽しい、好奇心を持って取り組める研究を常にしていたいです。自分の研究テーマに自信を持っていたいし、自分が面白くなきゃやってる意味がない。好奇心を持てる研究テーマを発掘できる研究者になりたいです。
スピンゼーベック効果については、今回の論文では一つの物質での観測を報告しただけなので、これからいろいろな物質で観測して、その依存性を測ったり、なぜこの効果が起きるのかという起源を根本的なところから解明していきたいです。そうして、スピン流を生成する効率や量を高める研究が進めば、さらなる応用につなげられると思います。
それと、単純に物理の真の姿を知りたいからという思いもあります。今回の効果を一般的な物理原理として確立することも研究の重要な点で、将来、自分の研究が教科書に載ったらすごくうれしいですね。