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2008年10月10日号

読書特集 秋の夜長を楽しもう

 長い夏休みが終わってみれば、いつの間にか季節は秋。秋の夜長と称するこの時期に、読書にふけってみてはいかがだろうか。インターネットの発達により、情報が氾濫する現代。ネット上には、無責任な情報も混在する。一方で、本は編集人の目が入っているので、情報の質は上がると言える。この機に、本を通して良質な情報に触れ、素養・教養を高めていこう。


  <歴史から日本の心を知る>
書評「時を旅する」.jpg

  『時を旅する』 武田専著・慶應義塾出版会

   当時の心理巧みに描く

 本学医学部卒の著者が、精神分析医として多くの患者に携わってきた長年の経験をもとに、歴史上の著名な人物や大衆の心理を巧みに描いた日本通史。

 戦国時代においては、覇権をめぐる争いを繰り広げた織田信長と室町将軍足利義昭、それに翻弄されながらもくじけずに功労をあげた豊臣秀吉と徳川家康、苦悩の末に謀反をおこした明智光秀、完膚なきまでに叩きつぶされた寺院勢力と徐々に浸透し始めたキリスト教の宣教師たち。どの時代においても、多くの勢力の思惑が交錯する中で織りなされた物語は、現代人の歴史に対する関心を大いに膨らませてくれる。史実と史実をつなぐ心理、史実の原因となった心理の描写が実に巧みで、文字を追うだけで生きた情景が思い浮かんでくるのが醍醐味だ。

 著者は自らを歴史学や考古学に関してはまったくの門外漢と謙遜するが、有史以前の人々の生活や思想にまで及ぶ細かな描写は、ひとえに研究熱心な著者の長年に渡る読書の賜物に他ならぬものであり、また思いのままに書き綴ったというその文体はかえって読み手に親しみやすさを与えている。形式に固執することなく自然体で記された本書には少しでも多くの人々、とりわけ将来の日本を担う若者にこそ触れてほしいという著者の切なる願いが込められていると言えよう。日本人として心に留めておきたい一冊である。(T)
【税込み三三六〇円】


  <気骨ある人物像に学ぶ>

  『ある明治人の記録』 石光真人著・中公新書

   真っ直ぐに生きる武人の姿

 ある明治人、柴五郎は会津出身、上級武士の五男として生まれた。時代は幕末。戊辰戦争により、幼くして、祖母・母・姉妹が自刃、さらにその後、不毛の地に移送され、極度の飢餓生活を強いられる。それらの不遇にも負けず、藩閥の外にありながら、陸軍大将、軍事参議官の栄誉まで得ている。

 本書は、二部構成である。第一部は、柴五郎本人が書いた少年期の記録を、筆者が読みやすく修正したものである。第二部では、筆者が当人との交流の様子や、交流当時の情勢などについて解説している。

 筆者は、明治人の気骨の素晴らしさと、事実がつづられるべき歴史がいかに危ういものかを訴えている。後者は、薩長藩閥による新政府から受けた旧会津藩の仕打ちに驚き、勝てば官軍という言葉もあるが、歴史が当時の主権者によって歪曲されることへの警鐘である。

 しかし、本書の見所は、何と言っても会津魂をもった武人の素晴らしさだろう。柴五郎は、新政府に対して個人的な恨みがありながらも、それ以上に、公の心を持って、国のために貢献している。また、義和団事件における活躍は、諸外国の称賛を浴びている。

 第一部の少年期の記録を読むと、当時の武人の精神がにじみ出ている。会津藩士の子どもとして、厳しくしつけられながらも、深く愛されて育った。不幸にあいながらも、家族で助け合い、また様々な人の協力を得ながら、道を切り開いている。まだ十代にして、困難に負けずに真っ直ぐ生きていく様は、心に響くものがある。(K)
【税込み六九三円】


  <注目の実用書を見る>
書評「東大生ノート」.jpg

  『東大合格者のノートはかならず美しい』 太田あや著・文藝春秋

   ノートによる情報整理術

 タイトルを一見すると、東大受験生のための本に見える。しかし本書は、東大合格生のノートには、ある共通項があり、学習に適した方法をとっているという内容である。

 受験生向けの会報誌の編集をしていた筆者が、あるノートに出会い、衝撃を受けた。それが、東大合格生が書いた、あまりにも美しいノートだという。筆者は、他の東大生が書いた受験時代のノートも美しいのだろうかと興味を持ち、集めたノートが二百冊。そのノートから、七つの法則性が浮かび上がってきた。

 同じ板書を写していても、ノート取り方は人によって千差万別である。また、使うノート自体にも人それぞれの好みがある。結局、自分に合ったやり方がいいのだろう。しかし、情報をまとめるためのノート作りには基本原則があり、それが七つの法則性ということなのだ。

 本書は、本物のノートを実例として掲載しながら、その法則性にあてはめて解説している。実例が豊富で、またカラーで見やすい作りになっている。教科ごとに解説しているので、模範にしやすく、受験勉強に限らず、応用も利くと思う。

 一つ注意しなくてはいけないのは、何のためのノート作りかということ。美しいノート作りが目的になってしまうと時間の無駄になってしまう。重要な点は、そのノートを通して、効率よく情報整理することである。この罠にさえはまらなければ、きっと本書は、各々にとって学習に適したノート作りを可能にする良き手引き書になることだろう。(K)
【税込み一〇〇〇円】


  <直木賞作家の話題作を読む>
書評「容疑者X」.jpg

  『容疑者Xの献身』 東野圭吾・文藝春秋

   衝撃のラストに涙

 人気作家、東野圭吾による探偵ガリレオ第三弾の推理小説。二〇〇六年、第百三十四回直木賞、第六回本格ミステリ大賞を受賞。映画化もされ、この秋十月四日から上映中である。

 本書は初めから、容疑者が分かっている形の推理小説である。容疑者で天才数学者、石神が仕掛けたトリックとは何か。それを探偵ガリレオと呼ばれる天才物理学者、湯川が切り崩す。容疑者側の視点をメインに描いていくが、肝心のトリックに関する重要な情報は意図的に描かれていない。そのため、読者は捜査が進む過程を眺めながら、両者が交わる一点が来る瞬間を予想、または待つことになる。最後、全てがつながる瞬間が面白い。

 「容疑者Xの献身」というタイトルだが、初めは容疑者が気にかける母子を助けるために完全犯罪を計画し、共犯者として罪をかぶる覚悟をしたことに由来するのかと思っていた。しかし、ラストで事実が明らかになっていくと、その覚悟が並々ならぬことであったことが理解される。「献身」という言葉が、改めて迫ってくるものとなるのだ。

 石神の愛は決して、純愛とは呼べないだろう。むしろ、他人には理解できない狂気の愛とも言える。しかし、そこにあるのは不器用ながらも真っ直ぐな愛だ。最後、石神が信じる愛のために、自ら殉じていく姿と、その明かされる事実には、涙を禁じえない。(K)
【税込み一六八〇円】


◇豆知識◇

 読書の秋の由来は、通説として、中国(唐の時代)の韓愈の言葉、「燈火親しむべし」から来ていると言われる。言葉の意味は、「気候がさわやかで夜の長い秋は、灯火の下で読書するのに適している」。日本では、古くから慣れ親しんでいて、読書の秋となったとか。

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