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2007年04月10日号

私の塾生時代 歌舞伎俳優 市川亀治郎さん

歌舞伎俳優 市川亀治郎さんきらきら輝く人間に

 NHK大河ドラマ「風林火山」の武田信玄役でTVドラマに初出演し、新境地を開拓する歌舞伎俳優の市川亀治郎さん。歌舞伎の世界では、立役も女形もこなす若手実力派としての地位を確立し、若手花形のホープと目されている。今回、市川さんに大学時代の思い出や現在のお仕事、そして新入生へのメッセージを語ってもらった。

――慶應に入学されたきっかけは?
 父が慶應で、親戚にも慶應出身者が多く、慶應とゆかりが深かったとろこが大きいです。父も慶應がよかったと言っていたので、慶應だけを受験して、大学から入学しました。

――大学生活はいかがでしたか?
 一言でいうと、大学時代に自主性が身に付いたと思います。成長した実感があります。例えば、中高同じだった友達が皆変わるので、自分から友人を求めていかないといけません。授業の選択もそうですが、すべては自分次第です。私は学費も全部自分で払っていました。かといって真面目なだけではなく、徹夜麻雀などもやっていたのですが。

 実際社会に出てみなければ分かりませんが、大学の四年間は一番いい時期だと思います。学生時代は本当の意味での拘束というものがありませんが、逆に社会に出れば自由に見えるようで、非常な拘束を受けます。大学生活は自主性がすべてといっていいと思います。

 下手をすると、「入試をパスしたらそれで終わり。難関を突破すれば頭が良い」というような錯覚をしますが、私は、まったくそうは思いません。慶應に入ったからといって、自主性が無い人はどんどん落ちてゆく。中学高校は勉強しなかったら、親や先生が「勉強しろ」と注意してくれますが、大学は一切そういうことはありません。留年という結果だけが待っています。そういう意味では大学は非情な所です。だから自主的にやらないといけない。

 社会に出ると、勉強したくてもする時間が本当にありません。試験のためだけに勉強するのでなく、授業で分らなかったところを図書館で調べるとか、物事を突き詰める方法を勉強してほしいと思います。社会に出るとそういう時間が取れなくなります。皆さんの目には社会の方がバラ色に映るので、卒業して社会に出ることに急ぎすぎているように見えます。もっと大学の四年間を大切に過ごしてほしいと思います。

――大学生活を充実させていくためには?
 大学生活は子どもと社会人の中間です。みんな社会人になることに性急ですが、社会人になってできることは、大学生活の内に急いですることもないと思います。大学生活でしかできないことがきっとあるはずです。例えばキャンパス生活。授業だけ来て、すぐに帰るのはもったいない。私はそういうことを意識しました。

――慶應で学んだが故に、今のお仕事に生きていることは?
 「独立自尊」ということでしょうか。決して迎合しないこと。つまり、九十九人が右と言っても、自分が左だと思えば絶対そちらに行くということです。言うは易しですが、行うは難しく、社会に出るとなかなかそうはいきません。独立自尊という言葉をぜひ座右の銘にしてほしいと思います。

 また、大学時代にいろいろなジャンルに手を出してほしいです。自分は文学が好きでしたが、化学、地学など理系の学問も取りました。二、三年になっても制度的には、他学部の授業も取れます。そういう制度をどんどん利用して、役に立つ、立たないという視点で授業を選択するのではなく、一・二年で広く浅く学んでほしいです。はっきり言って、授業の中で役に立つものは少ないです。別に文系の人間が化学式を知っていても、何も使いません。ただ、広く学ぶ中で直感力が身につきます。

――歌舞伎を通して学んだこと、人間として成長したと感じることとは?
 それは日本文化です。人間は、普遍的で変わらないものと自己とを比べることで、自分がどれだけ進歩したかを知ります。常に先人たちが積み上げた文化と自分を比べ、自分がどこまで行ったのかを見る目を持ってほしいです。

 文化を眺めていくと、時代と共に変わっていくものと、時代が変わっても変わらないものがあります。例えば、福沢先生でも、いい発言とその時代だからできた発言があります。大学時代にそれを見極める目を養ってほしいと思います。

――大河ドラマや自主公演など、新しいことに挑戦されていますが、どういう思いで挑戦されているのですか?
 「独立自尊」の言葉が好きだったので、己を保ち尊びつつ、自分のやりたいことをやる思いです。新しい分野を開拓し、人のやっていないことをやりたいと思っています。様々な分野に挑戦してゆくことで、揺れない自分が確立できます。

――亀治郎さんの歌舞伎に対する姿勢とは?
 大前提は、自分の好きなことを仕事にすること。好きなことであれば、多少労働条件が厳しくても我慢ができます。つらいこと、障害があっても壁とは思いません。嫌いなことをやっているから、壁やプレッシャーに感じてしまうのです。

 十代から二十代は、「有名になりたい、地位に就きたい、金持ちになりたい」というような自分の欲望に支配されますが、それは小さい器の人間です。ある年齢を超えると、「人の役に立ちたい」というもっと大きな欲望が出てきます。自分の好きなことをして、果たしてそれが人の役に立っているかということを基準にすれば間違いありません。だから、「人の役に立ちたい」という欲望が出てきたら、自分は成長したと思っていいのではないでしょうか。

――新入生に向けてメッセージをお願いします。
 入試はテクニックです。頭が良い悪いではありません。本当の知識人になろうと思ったら自分から率先して学んでいくことだと思います。自主性を持ち、自分から素敵な友達を作って下さい。世間は学歴ではなく、その人の器量、人間性を見ます。社会に出れば、その人の周りにどんな人がいるかで、その人の人柄が量られます。良い友だちを持とうと思えば、「類は友を呼ぶ」の通り、自分がきらきら輝く豊かな人間でなければいけません。どうか素晴らしい学生生活を満喫されることを願っています。

 【いちかわ・かめじろう】 1975年東京都生まれ。98年慶應義塾大学文学部卒。四代目市川段四郎の長男。80年「義経千本桜」で初舞台を踏む。83年二代目市川亀治郎を襲名。精力的に舞台に立ち続け、歌舞伎座のほか浅草花形歌舞伎にも出演。2002年には自主公演「亀治郎の会」を立ち上げるなど、常に新しい分野に意欲的に挑戦している。NHK大河ドラマ「風林火山」に武田信玄役で映像作品初出演。

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