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2006年07月10日号

『解剖男』遠藤秀紀、講談社現代新書

動物の遺体は研究の宝庫

 タイトルは「電車男」のパクリ。京大霊長類研究所教授の著者は、通勤電車の中でも動物の遺体を解剖し続けているから。もちろん頭の中で、だが。現在、日本の動物園で死んだ動物の遺体は九九%焼却処分される。それは、日本の解剖学が現実的利益優先の医学部主導で発達したから。その結果、欧米に比べ遺体科学は大きく遅れている、と嘆く。

 稀に残されている遺体の一つが忠犬ハチ公。外観は剥製で、臓器はホルマリン漬けになっている。心房には多数のフィラリアが見られ、蚊が媒介するこの寄生虫が死因の一つと考えられる。キリンのタカオは著者らの手で骨格標本にされ、国立科学博物館に展示されている。著者のアイデアで高い台座に乗せ、キリンの背の高さを強調した。

 遺体の見方の基本は「系統」と「適応」だという。例えば、前歯のないキリンはウシやシカの系統に属する。適応はライフスタイルによって動物の体が変化すること。例えば、コウモリの翼は指が長く伸びたもの。こうした形態的な分類は、著者が「硬い遺体」と呼ぶ骨の研究で得られる。頸つい(首の骨)は、哺乳類の場合七本が連結され、鳥類だと十二本から二十五本になり、これは系統の問題。骨の研究は一種の統計学で数が必要なため、日本の博物館の五十倍もの遺体が保管されているヨーロッパの博物館に出かけるという。

 骨以外の遺体は「軟らかい遺体」で、その保存は時間との勝負になる。動物園でサイなどが死ぬと、クレーンの扱い方というおよそ動物学者らしくない技能が成否を決める。興味深いのは、ゾウの腎臓はホッキョクグマやクジラ、イルカと似ていること。いくつかのユニットに分かれ、尿を濃縮することで水を節約する仕組みになっている。これも、外見からは分からない系統で、ゾウは昔、海を泳いでいたことが推測される。何より、科学者らしからぬ面白い文章で読ませるのがいい。(T)【税込七五六円】

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