<<メインページに戻る

2006年04月10日号

『生老病死を支える』方波見康雄著、岩波新書

患者本位の医のあり方

 著者は北海道奈井江町の開業医。十四年勤めた大学病院を辞め、父の後を継いだ。同町は人口七千、かつては炭鉱でにぎわったが、今は過疎と高齢化に直面している。終末期の医療と介護をどうするか、日本全国の過疎地が抱える問題だ。そこで著者は米国の事例を参考に、先進的なプライマリー・ケア(初期医療)に取り組む。家庭医が治療を担当する、町立病院の開放型共同利用だ。何より患者本位の治療と介護が行える。

 「子供きらうな/自分も来た道じゃ/老人きらうな/自分も行く道じゃ」。著者の医院の外来待合室に掲げてある書だ。ミレーの複製画より人気があるという。長い間、人は地域で育ち、死んでいった。ところが、経済発展に伴う都市化が、その様相を一変させた。働くことが優先され、多くの人が都会に出る。人生の継続性が失われ、若者から中年まで、やがては自分も老いることを忘れている。近代社会特有の脆弱性ともいえよう。

 開業医となった著者が診察室で会うのは、小さいころからの顔なじみ。老人たちは、そんな著者に最後まで診てほしいと願う。病院の改革を考えていた町長の相談を受け、前述のようなシステムを作り上げた。昏睡状態にあった患者が、著者が訪ねた瞬間、覚醒するということもあったという。

 市町村合併が進んでいるが、そのテーマの一つは、経営を含め拠点病院をどうするかだ。多くは赤字に悩んでいる。地域医療に取り組んだ長野県が医療費の抑制に成功したように、日常的な健康づくり、予防医療を軸にした対策が求められている。米国では百歳以上の人の多くが自宅で自立しているのに、日本ではほとんどが施設暮らし。

 本書は著者の小さな自伝ともいえ、人生観を形成した戦争体験や読書歴が語られる。そこからは、プライマリー・ケアの実現に必要な医師の人格がうかがえる。(T)【岩波新書、税込七三五円】

copyright(C) keiocampus newspaper 2004-2006;