2005年08月10日号
「心が身体を動かす」 藤平信一氏に聞く
心身統一合氣道会 会長代理
本学體育會合氣道部 師範
心を知ることが大切
先ず自己の心身統一を
本学の體育會合氣道部の師範で、日吉と三田で合氣道の授業を担当する藤平信一氏。藤平氏は、塾員であり合氣道十段である藤平光一氏を父に持ち、「心が身体(からだ)を動かす」という氣の原理を、合氣道の実演とともに教えている。そこには、心の面がおろそかにされ、人と人との関係が疎遠になっている現代において、学ぶべき点が多くあるように思える。今回、藤平氏に話を聞いた。
――最初に、心身統一合氣道についてお聞かせ下さい。
まず、「心身統一」の意味を説明しましょう。我々は誰でも、心と身体を持っているのですが、日頃、心と身体を別々に使っている場面が多くあります。例えば、何かをするときに、やりたくないと思いながらやっていたり、心を十分に目標に向けずに身体だけ使ったりしてしまいます。心と身体が分離している状態を「心身分離」と言います。心身分離の状態は疲れやすいし、能率も良くありません。一方で、心と身体が一つになっている状態、これを「心身統一」、あるいは「心身一如」といいます。合氣道の技は、心身統一した状態で初めて出来ます。
もう一つ重要なことは「心が身体を動かす」ということです。我々が何かをするには、必ず、心が身体を動かしています。しかし、日常生活では心の存在を忘れがちです。合氣道だと、相手を力ずくで投げようとすると必ず相手の心は反発します。一度反発すると、それを導くのは大変なことです。例えば、駄々をこねている子供を連れて行くのは大変ですね。しかし、子供が自分の意志で動こうと思えば、こちらが動かそうとせずとも動いてくれます。同じように、合氣道の技を行う上で重要なのは、相手の身体をどう投げるかではなくて、相手の心を尊重し導くことにあります。
――心身統一合氣道の特徴というと?
心身統一合氣道のもっとも重要なところは、「心身統一」にあります。相手をコントロールすることを考える前に、自分自身の心と身体をコントロールすることが先決です。その最たる例が姿勢です。ただ、姿勢といっても普通の身体の姿勢のことではなく、天地と一体となった自然な姿勢であり、心身統一した状態のことを指しています。
――天地と一体となるとは?
ここでいう天地とは、天と地のことではなく、我々をも含めた大自然すべてのことを天地と言っています。心身統一合氣道の目的は、心身を統一し、天地と一体となることです。
――心身統一合氣道を創始されたのは、お父様の藤平光一先生ですが、創始までのいきさつについて少しお聞かせ下さい。
光一先生は、もともとはとても身体が弱く、幼い頃は本ばかり読む少年だったそうです。すばらしい本を読んだ直後は勇気が沸いてくるのですが、しばらくすると、またもとの状態に戻ってしまいます。そこで、本当に強くなるには、心と身体の両方を強くしないといけないことに気付きます。そこがスタートだったと、言われています。
その後、慶應義塾大学に入るのですが、慶應では柔道部に在籍していました。しかし、胸を強打して肋膜炎を煩い、医師からは軽い運動もいけないと言われ、一年間休学することになります。病気をすると心が弱くなって、身体も心も落ち込んでしまいました。そこで、山岡鉄舟由来の「一九会」というところに入会し、みそぎの修行をしました。みそぎでは、呼吸法や、一息で息を吐ききるといった行(ぎょう)をします。一日中、行をして、それを三日間続けます。本来ならば、そんなことをしては大変なことになるのですが、捨て身の覚悟で行をした結果、肋膜炎が完治し、心の重要性に気付くのです。
そして、合氣道の開祖、植芝盛平先生に出会い、入門します。その後、第二次大戦で戦地に赴き、戦地での経験を通して、尚更に心の重要性や、天地自然に生かされていることを感じ取ります。戦後も合氣道の指導をしてきたのですが、更に、中村天風先生との出会いを果たします。天風先生は、心の重要性を説いた方ですが、光一先生は、それは合氣道においても同じ事だと、そこで氣の原理に気付いたそうです。
一九五三年には、単身でハワイに合氣道の普及に行きます。弟子が誰もいない中で、現地で演武会やセミナーを通して弟子をつくり、そこからアメリカの本土に渡り、一カ所行くごとに、また演武会とセミナーをして弟子をつくり支部を作っていきました。そうして、海外でも合氣道が盛況になっていきました。
――現在の日本の教育のあり方について感じるところは?
心の実在を知ることが大切だと思います。親と子、先生と生徒、上司と部下には、一種の力関係があります。上にいるものが、力関係や仕組みで相手を変えていこうとしやすいのです。しかし、一人ひとり心を持っているのですから、例えばミスをしたときに、なぜそうしたのか、どうしてそれがいけないのか、自分自身で気が付くように教えてあげるべきなのです。ところが、心の状態を無視すると押し付けになってしまいます。そうではなくて、相手に気付きが生まれるようにしてあげるのです。それが教育の根幹だと思います。
私はよく、教育関係の場に講演に行くのですが、そこで親御さんに、子供に「おはよう」や「お帰りなさい」などの挨拶をきちんとしていますか、と質問します。ほとんどの親が、きちんとしていると言います。ところが、子供に聞いてみると、親が挨拶していると言うのは多くありません。親と子供にズレがあります。一例を挙げれば、それは、お母さんが、料理や別のことに心を向けながら、形だけ「お帰りなさい」と言うからです。ほんの一瞬でもいいから作業を休めて、子供にしっかり心を向けて挨拶をすることが大切です。また、しっかり心を向けていると、子供のちょっとした変化にも気付けます。それだけでも、いまの犯罪というのは、だいぶ防げるのではないかと思います。教育には、心身統一したコミュニケーションが不可欠です。
――最後に、塾生へのメッセージをお願いします。
大学時代に、人間の基礎となる心と身体を養ってほしいと思います。特に、塾生の皆さんは、将来何らかの形で多くの人に影響を及ばす人がほとんどです。そういう人が自分の心と身体をコントロール出来なくては、世の中は悪くなってしまいます。ですから、大学生活の間に、人間の基本となる心と身体をしっかり培ってほしいと思います。心身統一合氣道は心と身体を一緒に鍛える上で最高ですが、合氣道以外でも学ぶ道は多くあります。在学中に、語学や資格だけではなく、人格や人間性をしっかりと磨いてほしいと思います。
(注)「氣」という言葉について…「氣」とは八方に広がっていくものであるのに、「気」ではそれをシメてしまうということから、分けて使われている。
【とうへい・しんいち】1973年生まれ。東京工業大卒。幼少から父で合氣道十段の藤平光一氏より指導を受け、現在は、後継者として国内外で氣の原理と心身統一合氣道を指導。また、氣の原理を人材育成やコミュニケーションスキルに活用し、経営者や管理職、教育従事者を対象としたワークショップ・講演会・企業研修での指導も行っている。(財)氣の研究会会長代理も務める。
藤平光一氏の近著。藤平氏は、巨人軍の王、長嶋や、相撲の千代の富士に気を指導したことでも知られる。さらに近年では、松井秀喜がニューヨーク・ヤンキースに渡米する際にも指導を行った。
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