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2005年08月10日号

義塾の財政状況について 井上和雄常任理事に聞く

井上和雄 常任理事民間から本学理事に就任
(財務・経理、経営改革、財政経営システム改革担当)

財政基盤の強化が急務
全入時代到来で競争激化

 今年四月二十二日、安西祐一郎塾長が再任されて第二期目を迎えたことに伴い、五月の評議員会にて新常任理事八名が選出され、慶應義塾は新体制を発足させた。その理事の中で、唯一民間である三越から財務担当として就任したのが井上和雄常任理事。まもなく塾創立百五十周年という節目の時を迎えるに当たり、懸念視される塾の財政状況の改善に向けて、寄せられる期待は非常に大きいものと考えられる。今回、井上理事に、就任にいたる経緯、担当される財政・経営改革プロジェクトの展望などについて話を聞いた。

――今回、唯一塾外から理事に就任した経緯は?
 私は昭和二十九年に慶應大学経済学部を卒業すると同時に、三越に入社しました。そして平成十年、社長に就任して以来四年間、三越の体制建て直しのため尽力し、社長を退いてからは相談役として社業に携わっておりました。

 三越本店のすぐ側には、かつて世界最大の百万都市、江戸の街の中心として、人、モノの往来で賑わい、日本全国街道の基点である日本橋がありますが、この重要文化財日本橋を美しく守って、街全体をにぎやかに活気づけることを目的とした「名橋『日本橋』保存会」がありまして、その会長を仰せつかり、橋を中心に町内会の方々や、近隣企業で働く人たちと一緒に協力して活動をしてきました。

 そうした最中、安西塾長から塾の財務担当の常任理事への就任要請があったのです。始めはとんでもないという思いでした。確かに、少し前に塾の評議員を四年ほど務めていたので、塾の雰囲気はある程度知っていましたが、財務状況を詳しく把握しているわけでもなく、それに年齢が年齢でもありましたから(笑)。しかし、その時の塾の財政は楽観を許さない状況にあり、また学生・教員・職員という三主体のみでは意識改革が難しく、民間人の感覚、塾外からの着眼点を至急に取り入れたいという塾長の熱意を受けて、就任を決めました。教員以外で民間から就任した理事は、私で戦後四人目だそうです。

 しかし、経理・財務担当といっても、私が三越時代に経理を専門にやっていた訳ではないし、何より企業会計と学校法人の会計は全く中身が違うため、その勉強には大変苦労しました。

――国内外で高い評価を得た塾財政ですが(注)、その実情は?
 やはり、大変厳しいものでした。一般に消費支出差額(消費収入と消費支出の差額)がゼロ、すなわち消費収支が均衡しているならば、財政状況に問題はなく「健全な状況」にある、といえるのですが、平成十六年度における全塾のそれは八十一億円の不足となっており、差額の累計に至っては十六年度までで、実に五百九十億円の不足になっています。これは大変に憂慮すべきことです。確かに塾には充実した設備など蓄積されている部分も多いのですが、毎年収支のバランスが崩れているのは問題と言わざるを得ません。

 戦後六十年を経過して、世界も日本も大きく変化してきています。大学とて例外ではありません。むしろ、これから大学は受難の時を迎えます。少子高齢化が進んで、志望する全員が大学に入学できる全入時代に突入し、また国立大学の独立行政法人化によって私立大学との競争が進むこともあって、日本中の大学が生き残りを賭けてしのぎを削り合う競争になりました。塾も絶対、この競争の勝ち組として未来に進まねばなりません。そのためには、塾の財政基盤を強い体質に組み変える必要があります。そこで、二〇〇二年から塾の財政のあり方を変える必要性が出てきました。そこで、塾でも以前から経営改革プロジェクトを立ち上げ、問題点の検証を行ってきたのですが、結局大学は人の集まりであり、一人一人が自分たちのしている仕事に対する合理化の意識を揃えていかないと改革はできない訳です。しかしながら、内部で働く人たちが馴れた仕事のやり方を急に変えることは容易ではなく、計画通りには改革のスピードが上がらず、そうしている間に負債がどんどん積み重なってしまう。そこで、塾長は外部から注意を喚起するため私を呼んだのです。

 しかも、慶應義塾は三年後に創立百五十周年を迎え、世の先導者としての像を国内外に打ち出したいと考えていますが、それにはかなりの資金が必要であり、財政を黒字に転ずる改革を行う必要があるわけです。三年後という時間的制約に加えて、その事業規模の大きさから、スピードを上げ、的を具体的に絞らなくてはいけません。そのことを就任以来準備してきたのであり、九月までに改革の具体案を出さねばと思います。

 最も問題になるのは、やはり改革に携わる教員・職員一人一人の意識です。この方々の中には財政・経営に関する専門家も少なからずいる訳で、資料を見れば塾の現状は十分把握できるはずです。それに対して、自分の問題として捉えず、関係ない他人事としてしまっているようでは、改革はいつまでも進みません。そこをもう一度問い直して、変えることに力を併せてほしいと思います。

――塾生へのメッセージをお願いします。
 私は学生時代、体育会バレーボール部に所属していました。そこでいい友人と出会い、チームプレーを学びましたが、やはり一生付き合っていく友は大切にしてほしいと思います。そこで、老婆心かも知れませんが、お金の貸し借りだけはやめましょう。せっかくの友情もこの問題が絡むと壊れてしまいます。このことは今も昔も変わりません。

 最後に、忘れてはならないものは基本に立ち返ってしっかり身につけるということが大切です。例えば、塾歌などは時代を超えて普遍的に通じる内容を歌った素晴らしい歌ですが、そういう我々が大事にするべきものの奥にある本当の意味などをしっかり理解してほしいと思います。

(注)慶應義塾は二〇〇四年一月、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)と格付け投資情報センター(R&I)の格付け機関二社から格付けを取得し、S&Pによる格付けはAA(ダブル・エー)、アウトルックは「安定的」、R&Iによる格付けはAA+(ダブル・エー・プラス)という国内大学の最高評価を得た。多様性と先進性に富むトップレベルの教育・研究や、健全な財務体質、経営改革によるコスト改善の見込みなどを評価された。国際的な格付け取得によるグローバルスタンダードな評価を求めた国内の大学は慶應義塾が最初である。

 【いのうえ・かずお】1931年生まれ。54年慶應義塾大学経済学部卒。同年㈱三越入社。77年仕入本部長、取締役。89年常務取締役。95年専務取締役。98年社長。2002年より相談役。また98年より慶應義塾評議員(02年まで)、(財)三越厚生事業団理事長、名橋「日本橋」保存会会長も務める。03年からは東京都中央区監査委員

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